【ソウル=名村隆寛】韓国の元慰安婦らが日本政府を相手取り損害賠償を求めた訴訟で、ソウル中央地裁は8日、原告側の請求を認め、日本政府に対し原告1人当たりに1億ウォン(約950万円)の賠償支払いを命じる判決を言い渡した。日本政府を相手取った元慰安婦らによる訴訟としては今回が初の判決。悪化の一途をたどる日韓関係は、一層危機的な状況に陥った。 日本政府は、他国の裁判権に国家は服さないという国際法上の「主権免除」の原則に基づき、訴えの却下が相当として、これまで審理に出席していない。韓国の司法府は今回、この原則を適用しなかった形だ。 訴訟は2013年8月に起こされ、故人を含む元慰安婦12人が1人当たり1億ウォンの賠償を請求。原告側や元慰安婦の支援団体などは、慰安婦問題を「反人権的な国家の犯罪行為」とし、主権免除に反対してきた。 原告勝訴となったことで、日本政府が控訴しなければ、判決は今回の1審で確定する可能性が高くなった。韓国国内の日本政府の資産が差し押さえの対象となることもあり得る。 日韓両政府は2015年の合意で、慰安婦問題の「最終的かつ不可逆的な解決」を確認した。しかし、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権は「この合意で問題は解決しない」(文在寅大統領)との立場を取り続けており、合意は事実上、韓国側が一方的に破棄したも同然の状況にある。 いわゆる徴用工訴訟で韓国最高裁が日本企業に賠償を命じた判決を受け、韓国では日本企業の資産現金化に向けた手続きが進められている。ただ、今回の訴訟は、訴えの対象が民間企業ではなく、日本政府であることで判決は注目された。主権免除の原則を無視した形で、日本の主権も尊重されず、国家への強制執行が現実味を増したことで、日韓関係はさらに悪化の勢いに歯止めがかからなくなった。 今回の訴訟とは別に、ソウル中央地裁では今月13日にも同様の訴訟の判決が言い渡される。この訴訟では、元慰安婦ら20人が計約30億ウォンの賠償を求めている。
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