時事通信社
夫婦別姓を認めない民法と戸籍法の規定は憲法に違反すると訴えた家事審判の決定で、最高裁大法廷は6月23日、「合憲」との判断を示した。15人の裁判官のうち、11人の多数意見で、4人は「違憲」とした。
「違憲」とした判事の一人である草野耕一氏は、選択的夫婦別姓制度を導入しないことについて「余りにも個人の尊厳をないがしろにする所為であり、もはや立法裁量の範囲を超えるほどに合理性を欠いているといわざるを得ず」として、今回の決定に強い反対の姿勢を示した。
草野氏は弁護士出身。主にビジネス分野を渡り歩いてきた。
朝日新聞デジタルなどによると、草野氏は国際的な企業の合併・買収(M&A)案件を数多く手がけ、交渉のプロとして知られる。小糸製作所監査役や、楽天の社外取締役を歴任した。日本最大の法律事務所のトップを経て、2019年2月に最高裁判事に就任した。
夫婦同氏「少なからぬ福利の減少もたらす」
草野氏は、選択的夫婦別氏が導入されることが、国民の福利にどのような影響を与えるかについて「反対意見」の中で言及した。
「それまでの人生において慣れ親しんできた氏に対して強い愛着を抱く者は社会に多数いるものと思われる。これらの者にとっては、たとえ婚姻のためといえども氏の変更を強制されることは少なからぬ福利の減少となるであろう」とした。
さらに、実生活で旧姓を使用できる場面が増えているものの、二つの氏を使い分けることのわずらわしさがあること、自己の氏名に対するアイデンティティが希薄になるといったマイナス面を列挙。これらを踏まえ、夫婦同氏制は「婚姻によって氏を変更する婚姻当事者に少なからぬ福利の減少をもたらすもの」との見方を示した。
子どもへの影響、どう見るのか?
選択的夫婦別姓をめぐっては、「両親の姓が異なるのは子どもがかわいそう」など、子どもへの不利益を懸念する声も少なくない。
子に及ぼす影響について、草野氏は「親の一方が氏を異にすることが、子にとって家族の一体感の減少など一定の福利の減少をもたらすことは否定し難い事実」とした。
一方で、「夫婦別氏とすることが子にもたらす福利の減少の多くは、夫婦同氏が社会のスタンダード(標準)となっていることを前提とするもの」だと主張。
「制度が導入され氏を異にする夫婦が世に多数輩出されるようになれば、夫婦別氏とすることが子の福利に及ぼす影響はかなりの程度減少するに違いない」と強調した。
法の力で強制、「憲法秩序にかなう営みとはいい難い」
選択的夫婦別氏制に反対する意見として、「伝統的な家族観が壊される」「(夫婦同姓は)日本の伝統的な文化」とする考えもある。
草野氏は、「選択的夫婦別氏制を導入したからといって夫婦を同氏とする伝統が廃れるとは限らない」と指摘。夫婦同氏などの伝統文化について、「その存続を法の力で強制することは、我が国の憲法秩序にかなう営みとはいい難い」と一蹴した。
さらに、たとえ選択的夫婦別氏制度の導入の結果、「夫婦同氏」の文化が廃れたとしても、「一部の人々に精神的福利の減少が生ずる可能性をもって、婚姻当事者の福利の実現を阻むに値する事由とみることはできない」とした。
草野氏のほか、三浦守氏、宮崎裕子氏、宇賀克也氏の3人の裁判官が「違憲」とする意見を示した。
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