政府は26日、英国、イタリアと共同開発する次期戦闘機の日本から第三国への輸出を解禁する方針を閣議決定し、国家安全保障会議(NSC)で武器輸出ルールを定めた「防衛装備移転三原則」の運用指針を改定した。2023年末の弾薬や弾道ミサイルなどの輸出緩和に続く、高い殺傷能力を持つ戦闘機の解禁は、武器輸出を抑制してきた日本の安全保障政策を大きく変質させることになる。(川田篤志)
防衛装備移転三原則 防衛装備品(武器や防弾チョッキなど)の輸出や、海外への技術移転のあり方を定めた政府方針。岸田政権は2023年12月、三原則と具体的なルールを定めた運用指針を抜本改定し、これまで原則禁じてきた殺傷能力のある武器の輸出を一部容認した。共同開発した武器の完成品の第三国輸出は結論を先送りしていたが、自民、公明両党が3月、次期戦闘機の解禁に限って合意した。
◆平和主義から逸脱、紛争助長の恐れも
憲法の平和主義を逸脱し、国際紛争を助長する恐れがあるが、野党を含めた国会の関与がないまま、政府・与党のみの協議で決めた。林芳正官房長官は26日の記者会見で「わが国にとって必要な性能を満たした戦闘機を実現するための見直しだ」と意義を強調した。
運用指針の改定では、無制限な輸出拡大を防ぐ歯止め策として
(1)輸出対象を次期戦闘機に限定
(2)輸出先は、国連憲章の目的に適合する使用を義務付けた協定の締結相手に限る
(3)現に戦闘が行われている国を除外
―の3点を明記した。
ただ、対象となる武器は追加が可能で、今後増える余地を残す。輸出先となりうる協定締結国は現在、米英伊など15カ国だが、現在交渉中のバングラデシュなど、締結国が増えるのは確実。輸出時点で戦闘が起きていなくても、その後に紛争当事国となって輸出した戦闘機が使われる恐れがある。
◆輸出の可否も政府・与党のみで決定
次期戦闘機を輸出する場合は、個別の案件ごとに閣議決定することも定めた。与党協議を行った上で、輸出の可否を審査する。ただ政府・与党のみで決めることに変わりはなく、武器輸出に議会の報告・承認が原則必要な米国と比べ、厳格性や透明性は低い。
次期戦闘機は35年に配備予定。機体設計を巡る3カ国の協議は近く本格化するが、日本が重視する航続距離の長さなどの性能が優先されるかは確定していない。
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◆軍需産業の影響力から抜け出せなくなる恐れ
【「新外交イニシアティブ」の猿田佐世代表に聞く】
政府が26日の閣議などで決定した、英国、イタリアとの共同開発による次期戦闘機の日本から第三国への輸出解禁が、日本の防衛政策全般に及ぼす影響について、安全保障に関する民間シンクタンク「新外交イニシアティブ」代表の猿田佐世弁護士に聞いた。(聞き手・川田篤志)
政府・与党の協議では「三つの限定」などの歯止めに集中して、本質的な議論が置き去りにされた。集団的自衛権の行使容認や敵基地攻撃能力の保有に続き、抑制的な武器輸出政策を転換させ、平和国家という日本の国のあり方を大きく変える方向に進んでよいのか、国民全体で一度立ち止まって議論すべきだ。
今回の決定は、日本社会にとって取り返しのつかない選択になる恐れがある。米国のように軍や軍需産業が社会に組み込まれ、その影響力から抜け出せなくなるかもしれない。
中小企業も含め、軍需産業の存在感が大きくなれば、そこで収入を得る人たちや、企業税収に頼る自治体が依存するようになる。しだいに軍需産業が政治で発言力を増してきて、輸出推進の声が高まることも予想される。今後、英国、イタリアからも「日本の技術が製造に必要だ」と言われ、別の兵器を共同で造る流れもできるだろう。歯車に一度入ると未来永劫(えいごう)抜け出せなくなるリスクを真剣に考えてほしい。
日本政府は対中国の抑止力強化のために輸出解禁が必要だと言うが、軍拡競争は際限なく、それより外交で緊張緩和をする方が現実的だ。日中両国の国民や政府機関のあらゆるレベルが持続的につながる仕組みをつくる外交努力をしてほしい。両国の関係が深まれば、戦争が起きた場合に自国が被るリスクが高まり、戦争を避けるようになる。
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