上海ディズニーランドではキャラクターも来場者とともに春節を祝った。
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中国は2月10日から17日まで8日間の春節(旧正月)休暇に入っている。コロナ禍前の「爆買い」が再び起きるのか、訪日中国人がどこに行って何を買い、どうやって過ごすのか、筆者はここ数日でテレビ局から何度も質問を受けた。
実は今年の春節に日本旅行をする中国人はコロナ禍前の2019年の5~6割にとどまる見通しだ。最近の報道では、その理由として枕詞のように「景気低迷」が挙げられているが、中国人の春節期間の海外旅行者数は2019年並みに回復すると予想されているので、全体を見た分析とは思えない。
中国人の海外旅行が急回復する中で、日本の物価が先進国の中でも際立って高いならともかく、円安によって割安感が出ているのに、彼らが日本に来なくなったのはなぜだろうか。そして、中国人の訪日旅行はコロナ禍を経てどう変化していくのか。2回にわたって考察する。
コロナ禍以後、初めての自由な春節
最初に中国人の一般的な春節の過ごし方について説明したい。
「春節は民族大移動が起きる」と聞いて「大量の中国人が旅行に出かける」と連想する人もいるかもしれないが、その主な目的地は故郷であり実家だ。中国には1~2月の春節と10月前半の国慶節と、1週間以上の連休が年に2回ある。春節は家族親せきで一家団らん、気候に恵まれた国慶節は旅行というのが、中国人のスタンダードな過ごし方になっている。もちろん経済力の向上などもあって、春節にレジャーに出かける人も増えているが、それも家族や親族単位での旅行が中心だ。中国の春節=一家団らんという価値観は、日本よりもはるかに強い。
中国人の知人たちのSNS投稿を見ると、ほとんどの人が今年の春節を家族、かつ家で過ごしていた。「〇年ぶりに親族が集まれた」という投稿が多いので、ゼロコロナは2022年12月に解除されたのに1年前の春節(1月下旬)は違ったのだろうか?と気になったが、すぐに思い出した。
中国ではゼロコロナ解除後に感染が爆発し、2023年1月はドミノのように皆が新型コロナウイルスにかかっていた。一家団らんどころではなかったのだ。景気も多少関係あるかもしれないが、多くの中国人にとって、今年の春節は故郷で皆と会うことが最重要ミッションだった。
景気が悪くても旅行には行く
ゼロコロナ政策が長く続いた中国では、今年の春節で久々に家族親族一同が集まったという人も多かった。
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もちろん、「故郷で一家団らん」がスタンダードな過ごし方であっても、旅行に出かける人もたくさんいる。
日本での報道を見ると「景気低迷などで」中国人の訪日旅行は減少、という説明が多いが、国家移民管理局は2月4日、今年の春節期間の1日平均出入国者数がのべ180万人にのぼるとの見通しを発表している。この数字はゼロコロナが解除された直後の2023年春節の3.3倍増で、2019年の水準と変わらない。
不動産市況と株式市場が低迷し、景況感が悪化しているのは事実だが、海外旅行に出かける人はコロナ禍前に近い水準に戻っている。その理由としては、この4年旅行に行けなかった人たちの需要が相当蓄積されていることと、春節休暇が例年より2日間長く(公休は8日だが、大晦日にあたる2月9日を休業扱いにしている企業が非常に多い)旅行の計画を立てやすいことがある。
また、自分やその周囲に置き換えてもらえば分かると思うが、ボーナスが下がったり雇用不安が生じても、支出を一気にやめるわけではない。東京在住の人が「沖縄に行きたかったけど、伊豆にしようか」というような、消費のダウングレードが最初の選択肢になるのではないだろうか。
中国から見た海外渡航先の中で、距離や物価の面で見れば日本に行くハードルは特別高いわけではない。本来欧州に旅行を予定していた人がアジアに行き先を変更する、というダウングレードが起きると受け皿にもなるので、「景気が悪い」「海外旅行者数はコロナ禍前に近いところまで回復している」という2つの事実だけを見ると、日本旅行には追い風の方がやや強い、と考えることもできるだろう。
団体旅行、解禁も戻らず
ところが、ビザの発給数や航空会社の予約数からは、春節期間中に日本旅行に来る中国人は2019年比で4~5割減になりそうだという。シンガポールなど東南アジアと中国を結ぶフライトはかなり回復しているのに対し、日中間のフライトが戻っていないのが大きな理由だ。
観光庁によると、2023年の訪日外国人旅行者数(速報値)は2019年比16.6%減の2490万人。うち中国人は同70.4%減の236万3000人だった。単純計算すれば中国人の減少幅が、全体の減少となっている。
2022年末までゼロコロナ政策を続けてきた中国は、2023年1月8日に国民の海外旅行を解禁した。ただ、前後して中国で新型コロナウイルスの感染が爆発したため、地理的に近い日本は即座に「入国時の検査」「陽性者の隔離」など水際対策の強化を実施した。これに対して中国政府は「差別的な入国制限」と猛反発し、対抗措置として日本人を対象にしたビザ発給を停止した。
3月ごろからビザ手続きは徐々に再開したものの、コロナ禍前までは15日以内の渡航はビザ免除だったのが、現在に至るまでビザ免除措置が停止したままなので、日本から中国には以前のようには気軽に行けなくなった。
ロンドンで2月11日に行われた春節を祝うイベント。世界各地で中国人旅行者の呼び込みが行われている。
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ノービザ渡航が復活しないことに加え、中国からの団体旅行が回復しないのもフライトが戻らない要因になっている。
中国は2023年8月に訪日団体旅行を解禁し、現地の旅行プラットフォームでは「日本」の検索が急増したと報じられた。中国EC大手アリババグループの日本法人がすぐに、日中越境医療ツーリズム事業を始めると発表するなど、日本側の期待も大きく高まった。
ところが東京電力福島第一原子力発電所が2023年8月下旬から処理水を海洋放出したことで、中国で激しい日本叩きが起き、その流れのまま10月の国慶節休暇に突入した。中国政府の「汚染水プロパガンダ」を受けて各所で忖度が働き、日本ブランドを中国の消費者に売り込みにくい状況は現在まで続く。海外旅行でもツアー企画やプロモーションは仕掛けにくくなっている。
みずほリサーチ&テクノロジーズは処理水放出前の2023日8月2日、団体旅行が10月に再開されるケースでは2023年の訪日中国人旅行者が346万人(2019年比36%)まで増加すると試算した。再開されないケースでは249万人と試算しており、実際の人数(観光庁速報値、211万人)はさらに少ない。
「中国人による爆買いはもう起きないのか」とよく聞かれるが、コロナ禍前に「爆買い」していたのは主に中国人団体旅行客だった。団体旅行客が束になってやってきて、家電量販店やデパート、ドラッグストアで短時間で高額品を買い込む光景はすさまじいインパクトがあった。
今は越境ECの整備で多くの日本ブランドが中国で買えるし、中国人も体験重視にシフトし爆買いは起きにくいと言われているが、目に見える形で爆買いが起きないのは、団体客の減少が直接的な要因だろう。
最も多くの中国人が向かう意外な「海外」
一方で、春節の海外旅行に関する記事や統計を見ると、「日本は人気」という一文はだいたい入っている。「行きたい国」でアンケートをとると、相変わらずトップ3に入ってくる。けれど、日本にはさらっと触れられるだけで、より詳細に取り上げられるのはタイ、マレーシア、シンガポールだ。
今年の春節において、中国の海外旅行トレンドは東南アジアなのだ。中国政府は昨年末から春節直前にかけて、タイ、マレーシア、シンガポールと観光目的での30日以内のビザを相互に免除することで合意した。
ビザの相互免除は友好の表現でもある。旅行会社やメディアにとってもこれらの国への渡航を促す方が、政府の意を汲んでいることになる。
ちなみに、実際、最も多くの中国人が旅行している海外は香港だ。香港は中国の一部だが、中国人が入境するには通行証が必要なため、旅行分野ではマカオ、台湾と同様に海外扱いとなる。これまた「なぜ香港に?」と聞かれるが、通行証の取得はビザ取得よりずっと手軽だし、最近は高速鉄道の延伸で、中国南部や西部からは陸路で香港に入りやすくなった。暖かいし中国語が通じるのも大きい。温暖で日本語が通じやすいハワイが日本人に人気なのと同じ論理だ。
この春節に中国人は2019年の半分程度しか日本に来ていない。しかしそれを「景気低迷など」で片づけるのは、観光立国を掲げる国として単純すぎるのではないだろうか。マクロの環境に加え、旅行の目的地が「行きやすさ」「魅力」「物価」など競合との相対評価で選ばれることに目を向けるべきで、中国人にとって日本は、複合的な要因によって相対的に行きにくい国になっているということだ。
団体旅行が不振極まる中でも堅調と言われる個人旅行の動向について、次回説明したい。
浦上早苗: 経済ジャーナリスト、法政大学MBA実務家講師、英語・中国語翻訳者。早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社(12年半)を経て、中国・大連に国費博士留学(経営学)および少数民族向けの大学で講師のため6年滞在。最新刊「新型コロナ VS 中国14億人」。未婚の母歴13年、42歳にして子連れ初婚。
からの記事と詳細 ( 春節に中国人が日本に来にくい、「景気低迷」より複雑な理由。海外旅行はコロナ禍前の水準に迫っている - Business Insider Japan )
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