言論の自由をよりどころとした過激な選挙運動が、刑事事件に発展した。4月に投開票された衆院東京15区補欠選挙で、複数の陣営から「選挙妨害」と抗議を受けていた政治団体「つばさの党」が、警視庁の強制捜査を受けた。関係者は「異常な雰囲気だった」と選挙戦を振り返る。(井上真典、渡辺真由子、鈴木里奈)
◆演説を始めようとした時、選挙カーが現れ…
「乙武陣営の皆さん、私たちもそこで演説したいので、車を入れさせてもらいます。俺らも選挙に出てるんで」。選挙告示日の4月16日、JR亀戸駅のロータリーにつばさの党から出馬した根本良輔氏(29)と団体代表の黒川敦彦氏(45)らが選挙カーに乗って現れた。
無所属で出馬した乙武洋匡氏(48)=落選=の陣営が演説を始めようとしているところに、乙武氏の女性問題や支援する小池百合子都知事の学歴詐称疑惑について「説明責任があります」と拡声器で畳みかけた。
根本氏らは電話ボックスに上り、乙武陣営の演説に重ねるように大声を上げ、選挙カーがクラクションを鳴らす場面もあった。応援の小池知事の声はほとんど聞こえなかった。両手で耳をふさぐ乙武陣営スタッフもいた。演説が終わるまで、こんな状況が40分以上続いた。
◆スタッフ6人がけが、被害届を提出
13日、家宅捜索の報道を受けた乙武陣営の幹部は「模倣犯が出る可能性もある」と再発防止策を求めた。陣営では、つばさの党の妨害行動の関連でスタッフら6人がけがをし、被害届を提出したという。
小池知事も同日、都庁で報道陣の取材に「異常な雰囲気で選挙にならなかった。他の候補者を追いかけ回したり音声をかぶせたりするのが、立候補の目的にかなっているのか」と批判。公職選挙法の「見直しも必要ではないか」と指摘した。
日本維新の会から出馬した金沢結衣氏(33)=落選=の陣営も、演説中に目の前で太鼓をたたかれる、街頭での練り歩きを追いかけられるなどの行為を受けたという。選対本部長だった柳ケ瀬裕文参院議員は家宅捜索について「選挙が終わってからでは遅い。期間中にしかるべき措置をとるべきだった。候補者が演説できず、有権者が訴えを聞くことができなかったという不利益は変わらない。残念だ」と話した。
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◆「表現の自由」より「有権者の知る権利の侵害」が問題
市民運動や表現の自由に詳しい内藤光博・専修大教授(憲法学)は「公道での街頭演説で、政治的意見を表明することは表現の自由の一環として当然認められること」と強調しつつ、今回のつばさの党の行為について「選挙の自由の前提である有権者の知る権利が侵害され、候補者の意見表明の自由も損なわれた側面がある」とする。
2019年夏の参院選で演説中の安倍晋三元首相にヤジを飛ばした男女2人が警察に排除される問題が起きたが、一般市民による肉声でのヤジは表現の自由の範囲内として認容された判例もある。
つばさの党は、聴衆が他の候補者の演説を聞き取れなくなるほどの大音量を上げるなどした。「候補者も1人の公人で、一般市民のヤジとは責任の度合いが違う」と指摘した。
ただ、警視庁が今回の家宅捜索の容疑とした選挙の自由妨害は要件が明確でなく、安易な適用は他の団体や市民に対する萎縮効果につながりかねないとする。「言論抑制につながりかねず、適用には慎重さが必要」と付け加えた。(太田理英子)
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