静岡県熱海市の伊豆山(いずさん)地区で起きた土石流災害は、10日で発生から1週間となる。住民らを巻き込んだ土石流。この1週間で、土石流の起点周辺の盛り土が被害の拡大につながったとの見方が強まっている。土石流はなぜ発生したのか。
今回の土石流災害は、雨量や地形、地質の悪条件が重なった。その上、盛り土に流れ込む雨水の排水が十分に機能していなかった可能性について、複数の専門家が指摘している。
「さらさらの黒い土砂と少しドロドロした茶色の土砂があった。明らかにあの地域特有の土砂ではない」。5日に熱海市伊豆山地区の土石流が流れた跡を調査した小山真人・静岡大防災総合センター副センター長(火山学)は、静岡県などのドローン(小型無人機)による上空からの映像も見て、こう分析した。
伊豆山地区の地質は、近くの湯河原火山や多賀火山の溶岩や火山灰が冷え固まった火山岩だ。ところが、こうした地質で土石流が起きれば観察されるはずの大きな岩の塊は、今回見当たらなかった。小山氏は「土石流の土砂は他の地域から持ち込まれたものだ」と話し、盛り土が崩壊したという県の見立てを支持した。
千木良(ちぎら)雅弘・深田地質研究所理事長(応用地質学)も地質に注目する。火山岩には、硬い岩と岩の間に水を通しやすいスカスカの層があることが一般的という。このため、千木良氏は、盛り土と元の地盤の間に大量の雨水を含んだ地下水が通ることで、滑りやすくなったとみている。人的被害はなかったものの、同様の土石流が京都府内であり「似たような場所は全国にあるだろう」という。
一方、安田進・東京電機大名誉教授(地盤工学)は地形に目を付けた。土石流の起点は、山の中腹の谷筋だった。谷筋では、山の地下水が集まって流れる。今回は、盛り土がこの流れを塞ぐ格好になり、強い水圧により盛り土に空洞ができて崩壊したか、盛り土に多量の水が浸透し浮力の影響を受け滑り落ちたとみる。
雨も特徴的だった。気象庁や日本気象協会によると、熱海市の7月1~3日の3日間の雨量は計411・5ミリに上り、盛り土の土砂が運び込まれ始めた2009年以降では最高を観測。ただ、1時間当たりで見ると数ミリと弱い雨の時間帯も多く、土石流が発生する直前になって14ミリから27ミリに増えた。
協会は「この比較的強い雨が引き金になった可能性がある。今回のような長雨では、避難のきっかけがつかみにくい。しかし、長時間の雨で地盤が緩むと、短い時間のやや強い雨だけでも災害につながる恐れがある」との見解を示した。
京都大防災研究所の松四雄騎(まつしゆうき)准教授(水文(すいもん)地形学)も「火山岩を破壊するほど強い雨は降っておらず、雨の総量が多く、土の中の貯水量が増えたことが影響した」と話す。
海堀正博・広島大防災・減災研究センター長(砂防学)は「盛り土では、谷筋にあるにもかかわらず排水が十分に機能していなかった可能性がある」と指摘する。元々崩れる危険性の高い状態だった所に、大雨という引き金が引かれ、崩壊が起きたというわけだ。県は、排水機能が不十分だったとの見方を示している。 海堀氏によると、18年の西日本豪雨では、落ち葉や流木、土砂などが流れて排水設備に目詰まりを起こし、土石流が発生した事例があった。安田氏も「きちんと排水がされれば、水が増えても川に入り込む」と話す。
政府は今後、全国の盛り土について調査する方針だ。海堀氏は「盛り土が宅地になっている所は調べられつつあるが、本当に問題なのは山間部の谷に埋められた盛り土だ。山間部を重点的に調査する必要がある」と訴えた。【信田真由美、渡辺諒】
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