政府は29日、新型コロナウイルス緊急事態宣言の対象に埼玉、千葉、神奈川、大阪を追加する方針を固めた。東京五輪開幕前に発令された宣言は、東京起点の感染拡大を防ぐ「予防的措置」のはずだったが、感染拡大は止まらない。政府は対象地域の追加には慎重だったが、過去最悪の感染状況に方針転換を余儀なくされた。(清水俊介)
◆「後手」批判を恐れた政府
「強い危機感を持って対応したい」
菅義偉首相は29日、緊急事態宣言の対象追加に応じる考えを示した。官邸で記者団に語った。
政府は、宣言の対象地域を増やすことには慎重だった。追加すれば、政府の対策が後手に回っていると認めることになるからだ。
今回、宣言を発令する四府県には、すでに宣言に準じた「まん延防止等重点措置」を適用。宣言のように事業者に休業の要請・命令はできないが、重点措置下でも営業時間短縮の要請・命令はできる。対策の柱の酒類提供は「原則停止」だが、知事の判断で提供可能で、神奈川以外では人数制限付き提供を認めている。
◆五輪への影響回避狙うも…
政府高官は「まず、やれることをやってもらわないと」と、各府県が酒類提供を認めなければ感染拡大は収まるとみていた。
政府が緊急事態宣言の発令を限定的にしたいのは、五輪への影響をできるだけ避けるためだ。
首相は7月8日、東京に4度目の宣言発令を決めた後の記者会見で「東京を起点とする感染拡大は絶対に避けなければならない」とし、「先手先手」「予防的措置」と位置付けた。人流が増える有観客での開催は断念したが、期間中の宣言延長や対象拡大は想定していなかった。ワクチン接種も進み、政府高官は今週に入っても「東京で新規感染者が2500人くらいなら問題ない」と語っていた。
しかし、発令から半月。東京で過去最多の感染者が確認され、周辺でも専門家の予測を上回るペースで急増。足並みをそろえた宣言地域追加の要請には応じざるを得なくなった。
◆「コロナ慣れ」で効果失った宣言
感染拡大が長引き、国民に「コロナ慣れ」が広がる。宣言は効果を失い、人出の減り方は鈍い。
1月に出した宣言では「集中的・限定的」に飲食店の対策を、4月に出した宣言では「短期集中」として大型連休中の人出の抑制を狙ったが、いずれも延長や対象拡大に追い込まれた。感染拡大が続き、国民の信頼を失っていった。
感染力が強いデルタ株(インド株)への置き換わりも進み、感染拡大は止まらない。首相も29日、記者団から「宣言の効果がなくなっているのではないか」と問われ、「いろいろな意見があることは承知している」と否定しなかった。
◆尾身会長は「明確な強いメッセージ」を要求
「今まで以上に明確な強いメッセージを出してほしい」。政府の新型コロナ対策分科会の尾身茂会長は29日の参院内閣委員会で、政府にそう求めた。
首相は同日、記者団に「人出は減少傾向にある。さらに減少を加速させるために自宅で(五輪を)観戦して協力いただければと思う」と語ったが、減少幅は小さくなっていると懸念される。官邸幹部も「やれることは変わらない」と、政府対応の手詰まりを認めた。
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