土砂崩れの多くは地震や降雨によって起こるが、こうしたきっかけもなく、なぜ起きたのか。奈良県下北山村の国道169号で23日夜に発生した土砂崩れで、車2台が巻き込まれ1人が死亡した。現場を調査した専門家は、急激な温度変化によって地中の水が凍ったり解けたりを繰り返す「凍結融解」によって岩盤が劣化した可能性を示唆。「同様の土砂崩れは全国で発生する恐れがある」と警告している。
国土交通省によると、今年1~11月、山やがけが崩れたり、水と混じり合った土や石が川から流れ出たりする土砂災害は1450件発生。この統計には道路脇に人工的に作られた斜面の崩落は含まれず、今回のようなケースを含めるとさらに増えるとみられる。
凍結融解はなぜ起こるのか。降雨や地下水などで岩盤や地中の微細な隙間に含まれた水分は、気温が下がると凍結する。水は凍ると体積が膨張するため、岩盤の亀裂が拡大。温度上昇によって氷が解けると広がった亀裂に浸透し、これが凍結するとさらに亀裂を広げる。凍結と融解が繰り返されることで、岩盤は劣化、風化していく。
現場を調査した京都大の大西有三・名誉教授(岩盤工学)は「100年単位の風化の結果だ。そもそも、現在の山と川の地形は、川が岩盤を削って急斜面ができ、凍結融解や降雨によって崩落が起こり、さらに川が岩盤を削るといった作用の繰り返しでできている」と指摘。過去にもこうした事例があったと説明する。
平成8年には北海道余市町と古平町を結ぶ豊浜トンネルの古平町側の岩盤が崩落。走行していたバスなどに直撃し、乗客ら20人が死亡した。
凍結融解は北海道で顕著にみられるが、特に山間部は気温の変化が大きく、どこで発生してもおかしくない。大西氏は「危険な斜面に面した道路をなくし、全てトンネルにすれば被害は起こらない。だが莫大(ばくだい)な資金が必要」と説明する。
国土交通省道路局環境安全・防災課の担当者は「被害を防ぐためには、地道な点検や巡回で吹き付けコンクリートのクラック(亀裂)や落石を発見し、対策を講じるしかない」としている。
発生、事前の把握困難
南部の山間部を中心に山々を縫うように道路が走る奈良県。大雨や台風のたびに土砂崩れが発生しているほか、冬季を中心に凍結融解が原因とみられる土砂崩れが確認されている。県は有識者委員会を立ち上げ、今後、原因究明とともに効果的な点検方法を模索する。
今回の奈良県下北山村で発生した土砂崩れは、国道沿いの吹き付けモルタルで補強していた斜面が約40メートルの高さから幅約20~30メートルにわたって崩落した。県道路マネジメント課によると、大雨がなく寒暖差が激しい冬から春にかけて、凍結融解によるとみられる土砂崩れが複数発生している。
県は、土砂崩れの危険性がある斜面については、モルタルやコンクリートを吹き付けて表面の風化や雨水の浸入を防ぐ対応をとってきた。主要な幹線道路については、週1回以上パトロールをして斜面や路面に異常がないか確認している。
地滑りは発生前に斜面に亀裂ができ、降雨による土砂崩れは小石が落下したり水が噴き出したりするなどの兆候がある。だが、凍結融解は事前に気付くことが難しい。県幹部は「雨による土砂崩れなら、連続雨量などで危険度を把握し区間ごとに通行止めにできるが、凍結融解はそれができない」と打ち明けた。
斜面の調査法、検討が必要
関西大の小山倫史教授(岩盤工学)の話
引き金となった直接の原因は分からないが、斜面の吹き付けモルタルの裏側に岩盤が風化してできた大量の土砂がたまり、耐えきれなくなって崩壊したと思われる。
吹き付け工法は、切り立った岩盤にコンクリートやモルタルを吹き付けて岩盤と密着させ、崩落を防ぐ。裏側の岩盤が風化して土砂化してしまうと密着性が失われ、土砂は下方に流れ落ちようとする。隙間が増えて浸透した雨水がたまりやすい状況になり、コンクリートやモルタルがさらに前へ押し出されるような水圧が作用するとともに岩盤の風化もいっそう進む。
全国の至る所に吹き付け工法で補強した道路脇の岩盤斜面はある。点検は日常、定期的にされていると思うが、異変に気付いて詳細な調査ができるかどうかがポイントだ。実際は、表面の確認はできても背面まではなかなか進まない。今回のように高い斜面の場合は点検だけでも大変な作業だ。
人工衛星から地表に照射した電波の反射波を分析することで、変化を観測する手法など新技術も開発されつつある。今後はそういった効率的かつ効果的な点検・調査方法も検討する必要がある。(木津悠介、秋山紀浩)
からの記事と詳細 ( 「100年単位の風化の結果」凍結融解で岩盤が突然崩落、悲劇はどこでも - 産経ニュース )
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